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京都家庭裁判所 昭和40年(家)1324号 審判 1967年8月18日

申立人 南村初子(仮名)

被相続人 亡南村昇(仮名)

主文

被相続人南村昇の別紙目録記載の相続財産中

(一)  1記載の物件を申立人南村初子に

同2記載の物件を同村山高一に

同3及び(二)記載の各物件を同大川ハマに

それぞれ分与する。

理由

申立人三名は、被相続人南村昇の相続財産について、それぞれ被相続人とのいわゆる特別縁故を理由とする付与の審判を申立てた。そこで当裁判所が調査したところによれば、下記の事実が認められた。

一、申立人南村初子は、被相続人の従妹、(被相続人は南村の祖父亡南村啓一郎の三女亡南村スミとその夫亡南村智行との間の子)。申立人村山高一はその伯父。申立人大川ハマはその叔母である。

二、別紙目録記載の物件は、いずれも、もと上記啓一郎の所有(ただし衣類中には申立人南村の母所有のものが混入しているようであること後記のとおり)であり、啓一郎は昭和一九年四月一日死亡したが、登記簿謄本による(一)1の物件については、昭和一二年一二月一四日に南村スミに、同2及び3の物件については、いずれも昭和一三年一月一二日に南村智行にそれぞれ贈与登記がなされていることが認められるが、右のうち(一)3の物件はともかくとして、他の二物件については南村スミまたは南村智行に真実に贈与がなされたかどうかは、はなはだ疑わしく、却つて(一)3の物件について、かねて啓一郎がスミの分家に当りこれを贈与すると口約束し、そのことは真実と認められるけれども、これに藉口して智行が啓一郎の病いあつきとき、右の物件の贈与登記(この点も啓一郎の確定的な承諾を得たかどうか疑いがある)をするに際し、他の二物件についても、ほしいままに上記のような贈与登記をなしたもののようである。従つて上記三物件または少なくとも右の二物件については、本来申立人南村において、啓一郎の二女であり、同人の母であるハル(昭和一〇年二月一日死亡)の正当な代襲相続分を存していたはずである。そしていわゆる特別縁故なるものは、かように相続財産について本来正当な権利を持つていた者で、その者の所為によらずにこれを失なつた場合または右権利の回復が著しく困難な場合をも含むと解すべきであるから、申立人南村は上記相続財産を機縁として被相続人といわゆる特別の縁故を有する者ということができる。

三、次に申立人村山高一は、被相続人の父母が相ついで結核で病死して孤児となつた被相続人のために上記(一)1及び2の物件について父の中田優次いで弟の高山夏吉に代つて昭和二二年頃より管理をなし、他との賃貸借契約の締結、賃借人との接衝、賃料の集金、固定資産税の納付、賃貸家屋の修繕などにあたり、その管理期間一七年に及び、右賃料については被相続人を世話していたその祖父中田優または申立人大川ハマにこれを交付して、同人等をして被相続人の生活費及び学資金に充てさせて同人の経済的生活を助け、その他被相続人の身上の監護については申立人大川ハマ、被相続人の祖父中田優等とともに預つて力があり、更に申立人大川とともに被相続人の葬儀及びその後の法要にあたつたものである。かように相続財産の管理維持ないし被相続人の監護及び死後の世話一切について寄与するところが大であつたから、同申立人またいわゆる特別縁故者ということができる。

四、次に申立人大川ハマは、被相続人が京都市○○高校入学の際同人を自宅に引取つて同居させ、それ以来被相続人の死亡した昭和三八年八月五日まで一一年余の間、すなわち被相続人の高校在学中及びその卒業後京都市内の建材店に通勤中、その起居について、実子四人をかかえて苦しい生活にもかかわらず、わが子同様万端の世話をなし、かつ申立人村山より上記家賃を受取り、これを管理使用して被相続人の監護養育にあたつたのみならず、被相続人が罹病し、京都大学附属病院等に入院中も、これが療養看護に努め、さらに被相続人の葬儀を申立人村山とともに執行するなど、申立人村山同様の寄与をなしているから、同申立人またいわゆる特別縁故者ということができる。

五、本件相続財産としては、上記不動産物件の外に、別紙目録(二)記載の衣類等があるが、右は申立人大川ハマ及び申立外中田まつの保管中のものである。ただし右衣類中には申立人南村の母亡ハルの衣類が若干混入しているようである。

なお、相続財産に準ずるものとして、相続財産管理人坂本一郎が上記家屋の賃借人三名から徴収した賃料を月々郵便貯金にして管理保管中の現金が存するが、右現金については、管理費用及び相続財産管理人の報酬金に充てるのが相当であるから、別件当庁昭和四一年(家)第六八六号相続財産管理人の報酬等の請求事件において処理することにし、本件では特にその金額を計上しない。

六、叙上説示の事実関係に、相続財産管理人弁護士坂本一郎の意見をしんしやくすれば、本件申立はいずれも理由があるといわなければならない。そこで別紙目録記載にかかる相続財産全部を申立人等に分与することとし、その分与方法については、各申立人及び相続財産管理人の各意見を聴取して慎重に考慮した結果、主文掲記のように分与するのが相当であると考える。

なお、本件申立人とはなつていないが、中田まつは被相続人の伯父伸吉の妻で、被相続人の小学二年より中学卒業までの間被相続人を自宅に引取つてこれと起居を共にし、その世話をなし、かつ被相続人の死後もその祭祀に当つていた者である。従つて同人は被相続人の監護養育等をなした点で、本件申立人等に劣らず、事実上特別縁故の資格を有する者であるが、不本意ながらも申立の機会を逸した者である。かように法律上同人に相続財産を何ら分与できないのは、はなはだいかんであるが、申立人等はこの事情を諒察して分与を受けた財産中より適宜同人に分配するなり、謝礼するなりして、多少なりとも同人の寄与に報いることが望ましい。また衣類等に就いては、申立人南村の母の物が若干混入しているようであること上記のとおりであるから、その分については一応分与を受けた申立人大川において、これを申立人南村に交付するようにし、その他の衣類については、同じく申立人大川において風習に従つて適宜本件申立人等被相続人の親族間に、いわゆる形見分けをすることが望ましい。

最後に本件については、申立人等の間及び関係者間にその分与をめぐつてかなりの紛争があつたようであるが、本審判を機会に申立人等はこうした経緯にとらわれずに、被相続人の遺志を体して今後は相互に理解と情誼にもとづいた円満な交際をはかるべきであり、かつ被相続人の祭祀については、諸般の事情を考えて申立人大川ハマが承継すべきであるが、同人において承継したときも、他の申立人等はなるべくこれに協力することを切望する。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 安達竜雄)

物件目録(編略)

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